大阪高等裁判所 昭和56年(行コ)54号 判決 1983年3月30日
控訴人(原告) 井阪正一 外三名
被控訴人(被告) 大阪市固定資産評価審査委員会
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人ら
1 原判決中控訴人らに関する部分を取り消す。
2 被控訴人が昭和五二年三月二三日付でした控訴人らの審査申出を棄却する旨の決定を取り消す。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文と同旨
第二当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加するほか原判決事実摘示中の関係部分と同一であるから、これを引用する。
一 控訴人の主張
1 本件建物の範囲について
課税技術上、登記簿の記載を基準とする必要のたることは否定しないが、仮りに例外的取扱いを一切許さないのが法の趣旨であるとすれば、本件建物につき登記簿上三棟からなる建物を機能的に一体であるからといつて三棟を一括して扱つていることは違法となるはずである。
さらに、固定資産評価基準二章一節五項で、一棟の家屋について固定資産税を課することができる部分とこれを課することができない部分とがある場合、区分して価額を求めるという定めにも反することになる。なお、仮りに区分不可能の場合には右基準二章一節五項但し書の方法によつて評価すべきである。
2 本件建物の非課税部分について
(一) 法三四八条二項一号所定の公共の用に供される固定資産の非課税の取扱いは、その固定資産の所有者が全く受益しえない場合にのみ非課税とされるというものではない。もし所有者が受益しえない場合にのみ非課税とするならば、所有者に受益の可能性のある同項七号所定の保安林が非課税とされるのに比し不公平である。
(二) 本件建物の通路の利用が道路占用許可の条件になつていないことから、右通路に課税し、これを非課税としないことは道路としての実態にそわない。
他の地下街は道路の直下の一層を地下街として利用しているので、道路の占用許可は地下街の利用に直結しているが、本件建物は高速道路下に地上四階、地下二階の多層構造であるため、他の地下街と異り、通路の利用を占用許可の条件とするのが困難であるにすぎず、右許可条件に代るものとして市交通局と開発公社はAB部分につき協定を結び一般人の通行を容易にしようとしているのである。また。他の地下街は道路と一体化されてないので除却可能であるが、本件建物では一体化されていて他の地下街と同一視できないので、占用許可に種々の条件をつけなかつたにすぎない。かくして、本件通路について道路としての実態を直視せずに、AB部分ともに課税するは違法というべきである。
3 本件建物の適正価格の算定について
時価は、取引事例比較法によるべきである。本件建物は高速道路を支えているので使用処分が制限されるから、右制限による下落を考慮すべきである。
ところで、自治大臣の定める評価基準は立地条件・環境を考慮しないからそれ自体不十分なものである。したがつて弾力的運用により適正価格を算出すべきであるところ、右基準によるとしても本件建物には高速道路からの四六時中の騒音、振動があるから一点当りの金額を低廉にするほか経年減点補正率は住宅のそれによるべきである。
二 被控訴人の主張
1 控訴人の右主張はすべて争う。
2(一) 課税のために家屋の評価をするに当り、建物の床面積、棟数の認定について建物登記簿によるべきことを定めた規定はない。実態にそつて認定するのが法意である。
(二) 法三四八条二項一号所定の公共の用に供される固定資産か否かについては、当該固定資産を「公共団体が実質上の主体として」「公共用に供する」という二点が重要な要件であるから、この要件を欠く本件建物について非課税部分を認めうる余地はない。
(三) 固定資産の価格決定は、固定資産評価基準によるべく義務づけられている。本件建物の評価は、法四〇三条に基づく評価基準に定める再建築価格方式によつて客観的に行なわれており何ら違法の点はない。右基準は、専門的かつ技術的審議をつくして設けられ、六回の改訂を経ており最適のものである。
控訴人の主張は、現行法を無視するか、その趣旨に反するものである。
三 証拠関係<省略>
理由
一 当裁判所も控訴人らの請求を棄却すべきものと判断するが、その理由は次に付加するほか原判決理由説示中の関係部分と同一であるから、これを引用する。
1 控訴人の主張1について
法の趣旨を仮定して主張する部分は、そのように仮定すべき理由はないし、また、固定資産税を課することができる部分とこれを課することができない部分を区分する場合又は区分不可能の場合の評価基準は、固定資産税を課することができない部分のない本件建物に適用すべき基準に当らないから、右主張は採用できない。
2 控訴人の主張2について
法三四八条二項一号には、公共の用に供される固定資産につき、所有者が全く受益しない場合にのみ非課税とするというような限定はない(所有者が受益しえない場合は、その顕著な場合にすぎない)。したがつて、保安林に比し不公平であるとの主張は当らない。また、本件建物の通路は、他の地下街(道路占用許可条件によつて地下道部分を公道として一般通行の用に供すべく義務づけられている)と異り、公共の用に供する道路とはいえない(交通局と開発公社との協定を道路占用許可条件と同視することはできない)。したがつて、他の地下街と同様の道路であるとの前提にたつ主張は採用できない。
3 控訴人の主張3について
右主張は、現行法令に副わない主張であり、採用できない。
自治大臣の定める評価基準に無効とすべき事由はないから、右基準に基づく価格の算定に違法の点があるとはいえない。
二 以上の次第で、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし、民事訴訟法三八四条、九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 小林定人 惣脇春雄 山本博文)